都市農地賃借法の創設


【都市農地の貸借の円滑化に関する法律案】(都市農地新法)の概要

(審議経過)

<議案提出者:内閣(農林水産省)提出>

・参議院議案受理年月日:H30.3.6

・参議院可決:H30.4.6

・衆議院議案受理月日:H30.4.6

衆議院:(本会議)H30.6.20 可決・成立

・公布:H30.6.27


 「都市農地の貸借の円滑化に関する法律案」H30.6.20に衆議院可決・成立、H30.6.27公布

<改正の主なポイント>

2018年度税制改正で新設の生産緑地の貸借での「相続税納税猶予が継続される措置」がスタート

生産緑地の「法定更新」適用の例外を設け、貸借期間が終われば所有者に返す措置を講ずる。

市民農園用に借りやすくする「特定都市農地貸付」の仕組みも創設。

農地を借りる手続きを簡素化。生産緑地に限り、所有者から直接借りて運営を可能にする。



★ 都市農地とは、「生産緑地地区の区域内の農地」をいいます。

★ 生産緑地とは、「生産緑地法」に基づき決定されてます。具体的には、一定の条件を満たしている市街化区域内の農地について、市区町村が 都市計画で「生産緑地地区」と定めた土地をいいます。




【現状】

  現在は、農地の貸借契約を結ぶと、当事者が契約を更新しないことを通知しない限り、自動的に契約が更新される仕組(法定更新)となってます。これは、借り手である耕作者の保護が目的ですが、農地所有者からは、貸すと相続税納税猶予が打ち切られることや、農地を返してもらえなくなる懸念から、農地所有者が農地を貸し渋ることが少なくありません。


【新たな制度の創設】

  この課題を解決するために、法定更新を適用しない仕組を「都市農地新法」に盛り込んでいます。

また、2018年度(H30年度)の税制改正では、生産緑地を貸しても相続税猶予が継続される措置が盛り込まれて、法案成立に伴い適用されます。(参照:H30年度税制改正の大綱(P38))


    具体的なスキームは、次のとおりです。

(1) 農地を借りる「都市農業者」が事業計画を作成し、市町村長に提出

(2) 農業委員会が賃借を認めてよいかの判断

(3) 事業計画について、市町村長が定める認定基準に適合する場合に認定

(4) 認定されれば、事業計画に従って設定された賃借権等は「農地法の特例」


【農地法の特例】

★法定更新(農地法第17条)が適用されない。

➡事業計画に基づく都市農地の活用終了後(賃貸借の期間終了後)には、都市農地が所有者に返還。



【制度のスキーム】

「都市農地の貸借の円滑化に関する法律案の概要」より抜粋
「都市農地の貸借の円滑化に関する法律案の概要」より抜粋

【ポイント】

  適用の前提として、自治体によって「生産緑地」として指定されていないと、この仕組は適用されません。生産緑地の多くは、三大都市圏に集中し、地方都市では指定されてない現状です。

   このため、参議院農水委員会では、自治体による生産緑地の指定が進むように、政府に支援を求まる付帯決議(※)が採択されてます。


※ 参議院農水委員会の付帯決議

(1) 認定基準の設定において、地域の実情を踏まえること。

(2) 市民農園の拡大や充実を図ること。



生産緑地法の税制改正(H30)

(1) 生産緑地を賃借した場合、「農地等に係る相続税又は贈与税の納税猶予制度」の見直し

➡一定の貸付けがされた生産緑地に係る納税猶予の適用拡大(相続税)

(2) 特定生産緑地の指定の有無による税法上の取扱い【重要です!!】


★ (1)については、市民農園以外の貸付け、また、市民農園への貸付も適用されます。

※ 「都市農地新法」:認定事業計画に基づく貸付と特定都市農地貸付けに基づく貸付け

※ 「特定農地貸付法」:現行どおり(市町村が農地所有者と農地の使用収益権を設定して、市町村から企業・NPO法人に農地を貸す場合(※直接の貸借契約ではない))


★ (2)については、生産緑地の指定から30年を迎える2022年以降において、特定生産緑地の指定を受けた農地については、相続税の納税猶予を受けることができ、固定資産税についても、農地課税となります。

★ しかし、特定生産緑地の指定を受けなかった農地や、特定生産緑地の指定を受けたものの10年経過後に「延長」を選択しなかった農地については、相続税の納税猶予は受けられず、固定資産税は宅地並み課税となります。(激変緩和措置として、5年間で段階的に宅地並み課税)

★ このことから、2022年において、生産緑地の農地所有者は、下記のいずれかの選択を適切にしないと大きな税負担を迫られることになります。

(1) 市町村長へ買取り申出を行ったうえで、生産緑地の指定解除し、土地の有効活用を行う。

(2) 特定生産緑地の指定を受けて、10年間営農を継続する。


<その他の改正事項>

(1) 三大都市圏の特定市以外の生産緑地に係る営農継続要件の見直し(相続税)

➡三大都市圏の特定市以外の生産緑地について、納税猶予を受けた場合の営農継続要件が、現行の20年から終身となります。

 

➡この適用は、【都市農地の貸借の円滑化に関する法律(仮称)】(都市農地新法)の施行日以後の相続又は遺贈により取得する農地等に係る相続税について適用されます。(適用を受けるためには、終身の営農継続が要件となります)


(2) 納税猶予を受けれる農地の範囲の追加

➡三大都市圏の特定市の田園住居地内の農地が追加されます。

※ 田園住居地域については、H30年4月に、国土交通省が「都市計画運用指針」を改正し、各市町村に田園住居地域のモデルを示す予定です。


※ 三大都市圏の特定市とは、都市計画法第7 条第1 項の規定する区域(東京都の特別区、三大都
市圏(首都圏、近畿圏、中部圏)にある政令指定都市及び既成市街地、近郊整備地帯などに所在する市をいいます。


※ P80~P82「田園住居地域内の農地の取扱い」を参照



【徒然やまとコラム】

【ポイント】

★ 相続税・贈与税の納税猶予の選択肢を残しておきたい場合には、特定生産緑地の指定を受ける必要があります。特定生産緑地の指定は、申出基準日(30年または10年を経過する日)までに行うとされてますので、期限経過後には指定を受けることができなくなります。(改正生産緑地法第10条の2)

★ 生産緑地を所有されてる方は、本法案の審議経過状況を注意深く見守って、新制度の運用も含め、税制面での対策が必須となります。(H30.6.20 衆議院可決・成立)

 ◆ 農地・生産緑地等の制度については、お気軽に、当事務所にお問合わせください。