改正出入国管理法(入管法)がH30.12.08に成立、H30.12.14に公布し、この改正法に基づく外国人労働者受入れの新制度がH31(2019)4月1日にスタートします。政府は、12月25日の閣議で、外国人労働者の受入れを拡大する新制度の詳細を定めた「基本方針」と14分野の「分野別運用方針」を決め、公表しました。これで、各分野での制度の実施内容と課題が見えてきたところです。
法改正の背景は、これまでの政策的な建前と現実の乖離(かいり)を解消して正常化し、正面から外国人就労の受入れを可能とする大きな政策転換です。改正入管法の趣旨は、深刻な人手不足に対応するために、新たな在留資格を設け、単純労働の分野で初めて外国人の就労を認める制度です。
新制度は、特定技能の1号と2号を創設し、単純作業など比較的簡単な仕事に就く「特定技能1号」は、最長5年の技能実習を修了するか、または、技能と日本語能力の試験に合格すれば取得でき、在留期間は通算5年上限で、家族の帯同は不可です。一方、より技術水準の高い「特定技能2号」は、熟練した技能を示す試験に合格すれば取得でき、回数制限なく更新可能、家族の帯同も可能です。2号は建設と造船・舶用工業の2業種だけが対象で、数年は導入が見送りとされてますので、当面は、「特定技能1号」での受入れとなります。
「分野別(14分野)運用方針」では、向こう5年間の受入れ見込み数が示され、経済情勢の変化がない限り、上限として運用することになってます。また、東京や大阪など大都市の特定地域に過度に集中しての就労が生じないように必要な措置を取るとされてます。加えて、必要に応じて、受入れ停止の措置も盛り込まれてます。
受入数は、特定技能1号で建設など14分野対象で、5年間で最大34万5,150人が想定されてますが、現状では、14分野で58万人の人手不足、5年後には145万人に膨らむとの予測もあり、5年間で34万人の外国人労働者を受入れても、不足の2割程度しか埋め合わせできないとの見方もあり、生産現場において、さらなる技術革新等による生産性の向上が必須な状況であるといえます。
14分野における「方針及び運用要領」により、実施のイメージが見えてきましたが、自治体・団体・企業など受入れ側の体制準備など、多くの課題を残した状況で2019年4月のスタートを迎えそうな状況です。
【当面の課題】
★新設する「特定技能1号」の資格を得るための技能試験を2019年4月に実施できるのは、介護、宿泊、外食の3分野にとどまっており、残る11分野は2019年度中の試験実施に向けての予定となってます。(各分野別の運用要領による)
★外国人労働者による医療保険悪用防止のための関連法案(健康保険法改正案)が整備されておらず、2019年4月には厳しい状況のようです。
★大都市圏への外国人人材の集中是正については、方針・運用要領に措置が施されているものの、賃金が相対的に高い都市圏に集中を是正する方法が明らかでない状況であり、実効性に課題があります。
★改正入管法に基づく技能実習制度が2019年4月のスタートから機能するかなど体制準備の課題もあります。
今後、これらの課題を速やかにクリアして、2019年4月からの新在留資格「特定技能」の実施について、各機関等の現場での協力・連携が欠かせない状況です。
農業分野での受入れの必要性について、H29年の農業分野に有効求人倍率は1.94倍であり、雇用就農者数は現時点で約7万人の不足で、深刻な人手不足な状況にあると言われてます。加えて、農業就業者の高齢化・減少、経営規模の拡大・雇用労働力の急激な増加を背景とした人手不足を改善できる見通しは立ってない状況です。
こうした状況を打開するためには、農業の基本的な技能を有した即戦力となる外国人を受入れることで、農業分野の生産現場を維持・発展させるために必要不可欠な人材と位置付けてます。
農業の分野では、「特定技能1号」の在留資格で、農繁期だけの受入れなど季節雇用が制度上可能となります。政府は、5年間で36,500人を受入れの上限(5年間で13万人の人手不足の見込み)とし、超えることが見込まれる場合には、農水大臣は、法務大臣に対し、受入れ停止の措置を求めるとされてます。
受入れ条件の「技能と日本語能力」の試験は、3年間の技能実習を修了した外国人は試験免除とされますが、技能試験は、耕種農業全般(栽培管理、農産物の集出荷・選別等)、又は、畜産農業全般(飼養管理、畜産物の集出荷・選別等)に関する「農業技能測定試験(仮称)」を実施、また、日本語能力試験は、「日本語能力試験(N4以上)」又は新設する「日本語試験判定テスト」(仮称)を実施し、ともに一定の水準以上を合格とする内容となってます。
当面は、日本で3年間の技能実習を既に修了している者で、技能や日本語の試験を受けなくても就労可能である帰国している外国人労働者の受け入れを見込んでいる状況です。
※ 農業では、2000年(H12)に技能実習制度が始まり、3年間の技能実習を修了した帰国済みの外国人が68,000人となってます。2017年の国内の新規就農者55,700人を上回っており、農業分野における人手不足を補える受入れが可能な外国人材がいます。
【人材派遣事業者等の課題】
2019年4月の制度開始までに、受入れをする特定技能所属機関となる人材派遣事業者や外国人の生活支援等を担う登録支援機関の確保など、受入れ体制の整備が、わずか3ヶ月で、できるかが課題となります。また、上記の人材派遣事業者が、農業現場の実情を正確に把握し、特定技能外国人の受入れを適正かつ確実に遂行する能力を有しているかも課題といえます。
【受け入れ農業者の課題】
外国人を雇用する農業者ら受入れ側に対し、外国人の労働環境の整備や外国人の生活支援を求めてます、また、報酬は、同一業務に従事する日本人等と同等以上の賃金支給を定めてます。
このうち、受入れ側にとっては、外国人の生活支援が大きな負担となるのではと懸念されてます。具体的には、住宅の確保や日本語習得の支援に加え、情報の提供や相談・苦情の対応など、農業就労の作業以外のマネジメントやサポートは、現実的には、個別農家での取組は、難しいと言わざる得ない状況が見込まれます。
このため、対策としては、法務省から登録を受けた「登録支援機関」(技能実習制度の管理団体を想定)に支援を委託することも可能としています。以下、改正法の骨格である「各機関等の要件(基準)」は、下記のとおりです。
改正入管法が適正に機能するかは、この登録支援機関が重要な役割を担ってます。これまでに、外国人の現業的就労に関するノウハウと経験を有している意識の高い団体でないと、この重要なミッションは果たせない状況です。
各分野での現業業務の作業手順に加えて、入管法令・関係法令以外に、労働関係法令・社会保険法令等にも熟知した実務能力を有している人材は欠かせないところです。
※ なお、技能実習法に係るコラムは、別掲(予定)とします。
【受入機関の要件(基準)】
(1) 雇用契約の基準(入管法2条の5第1項・第2項)
◆報酬は、同一業務に従事する日本人等と同等以上であること。
◆契約期間が満了した外国人の出国を確保するための措置があること。
◆一時帰国を希望した場合、休暇を取得させること等
(2) 雇用契約の適正な履行に関する基準(入管法2条の5第3項1号・第4項)
◆労働関係法令及び社会保険関係法令を遵守していること。
◆特定技能外国人と同様の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと。
◆行方不明者を発生させていないこと。(帰責事由がない場合を除く)
◆5年以内に出入国又は労働に関する法令に違反し不正又は著しく不当な行為をしていないこと。(入管法2条の5第4項)
◆欠格事由に該当しないこと。
◆保証金を徴収するなどの悪質な紹介業者等の介在がないこと等。
(3) 支援体制(支援計画)に関する基準(入管法2条の5第3項2号)
◆中長期在留者の受入れを適正に行った実績や中長期在留者の生活相談等に従事した経験を有する職員が在籍していること。
◆情報提供体制を確保していること。
◆支援の責任者等が欠格事項に該当しないこと等
【支援計画に関する基準】(入管法2条の5第8項)
◆以下の支援内容を含むものであること。
★入国前の生活ガイダンスの提供
★住宅の確保
★在留中の生活オリエンテーションの実施(行政手続、各種届出方法、生活情報、医療、防犯)
★生活のための日本語習得の支援
★相談・苦情への対応(労働条件、転職、生活全般、医療等)
【受入機関による届出】(入管法19条の18第1項・第2項)
◆特定技能雇用契約の変更をしたとき、若しくは特定技能雇用契約が終了したとき、又は新たな特定技能雇用契約を締結をしたとき。
◆1号特定技能外国人支援計画の変更をしたとき。
◆登録支援機関との登録支援計画全部委託契約の締結若しくは変更をしたとき、又は当該契約が終了したとき。
◆受入れている特定技能外国人の氏名及びその活動の内容その他の法務省令で定める事項。
◆適合1号特定技能外国人支援計画の実施の状況(登録支援機関に委託したときは除く)
◆特定技能外国人が行方不明となったとき。
◆特定技能外国人が出国したとき。
【登録支援機関の要件】
(前提条件)
受入機関には、支援計画の適正な実施が確保されるための基準に適合することを求めるが、登録支援機関に支援を委託すれば、この基準に適合するものとみなされる。(入管法2条の5第5項)
(登録の要件)
◆登録拒否事由(欠格事由)に該当しないこと。
★5年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした者でないこと。
◆中長期在留者の受入れを適正に行った実績や中長期在留者の生活相談等に従事した経験を有する職員が在籍していること。
◆情報提供体制を確保していること等。
(登録の手続等)(入管法19条の24、19条の25、19条の32)
◆登録の申請(代表者氏名、住所等の必要事項や疎明資料の提出)
◆出入国在留管理長官による登録。
◆登録の取消
★支援計画に基づいた支援を行わなかった場合。
★不正な手段により登録を受けた場合。
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