改正「食料・農業・農村基本法」に係る農地制度などの見直しって、なに?



食料・農業・農村基本法改正法が令和6年5月29日に成立、令和6年6月5日に公布・施行されました。

 

これを受けて、当社には、農業関係者・食品事業関係者・市場関係者等からの改正法に係るご照会や、異業種からの農業への参入、スマート農業導入、農業法人の経営基盤強化に向けた具体的な取組などについて、多くの分野において、ご相談が増えております。

 

改正法施行にかかる農林水産省の現在の動きは、食料・農業・農村基本法改正法及び関連3法について、令和6年7月10日(水)に本省での説明会が開催され、順次、全国11ブロックで、説明会が開催(R6.7.12~R6.8.8)されています。(申込によりオンライン視聴可)

 

改正の概要は、下記により、ご紹介しているところですが、今回の改正法に係る「農地制度の見直し」と「農地所有適格法人の要件見直し」など(説明会の資料3)について、ご紹介します。

 

「食料・農業・農村基本法改正案が目指すものは、なに?【前編】

 

「食料・農業・農村基本法改正案が目指すものは、なに?【後編】

 

 

◆ 食料安全保障強化に向けた「農地制度の見直し」について 

 

食料安全保障の根幹は、人と農地であり、農地は食料生産の基盤であることから、人口減少に対応し、将来にわたり、農地の総量確保を図るため、人と農地の受け皿となる「農地所有適格法人」の経営基盤の強化について、下記の必要な措置が講じられています。

 

1【農地の確保・適正利用に係る措置】 

 

(1) 農地の総量確保のための措置の強化 → 県の面積目標の達成に向けた措置・農用地区域の変更に係る国の関与強化 等

 

(2) 農地転用に係る手続きの厳格化 → 農地転用許可後の定期報告及び原状回復命令に従わない者の公表

 

(3) 農地の権利取得の厳格化 → 農地の権利取得時の法令遵守状況等の確認、不適正な農地利用を防止 等

 

2【将来にわたって農地の総量を確保し最大限活用を図るための措置】 

 

(1) 人と農地の受け皿となる農地所有適格法人の経営基盤強化 → 食品事業者等との連携による出資の柔軟化

  

上記の具体的な概要は、「図-1」のとおり、農振法(農業振興地域の整備に関する法律)に、明記されてます。 

 

また、農振法による「農地振興地域制度」と農地法による「農地転用許可制度」の関連は、「図-2」のとおり。

 

なお、農用地の効率的かつ総合的な利用を図るための「地域計画」(人・農地プラン)の仕組・概要は、「図-3」のとおり。

  


(図-1)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P2)
(図-1)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P2)

(図-2)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P3)
(図-2)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P3)

(図-3)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P4)
(図-3)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P4)

農地転用の手続きについて、当社に多くの相談とご依頼を頂いております。

 

(1) 農地法第5条申請である農地転用許可手続きは、現在でも、難易度の高い事例も少なくなく、今回の改正により、転用の実施状況等の定期報告の仕組みの構築や、違反転用に対する措置が公表する仕組みを創設するなど、厳格化されています。

 

(2) 農地転用に係る手続きの厳格化(農地法)の概要は、「図-4」のとおり。

 


(図-4)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P5)
(図-4)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P5)

3【農地の権利取得時の耕作者(「農地所有適格法人」含む)の属性の確認(農地法第3条)等】 

 

(1) 農地の権利取得の許可要件の例示として、農作業に従事する者の配置の状況、農業関連法令の遵守状況の追加

 

(2) 農地所有適格法人について、拒否権付株式を発行している場合には、その種類株主総会においても「農業関係者が議決権の過半を占めるべきこと」を明確化

 

★【農地法における権利取得の主な許可要件(農地の所有の許可要件)】

 

(1) 第1号:農地の全てを効率的に利用する

 

 → 耕作に必要な機械の所有状況、労働力、技術、農作業に従事する者の配置の状況、農業関係法令の遵守状況を見て判断

 

(2) 第2号:法人の場合は、「農地所有適格法人」である

 

 → 役員要件、議決権要件(種類株主総会においても農業関係者が議決権の過半を占めることを明確化)等

 

(3) 第4号:必要な農作業に常時従事する

 

 → 農作業に年間従事する日数は原則150日以上

 

(4) 第6号:周辺の農地利用に支障がない

 

 → 農地の面的集積を分断する、他の農業者の水利用や有機農業を阻害する農地利用でないこと

 

★【具体的な運用イメージは下記の通り(検討中)】

 

(1) 農地法第3条許可申請時に下記の事項について申告

・農作業に従事する者の配置状況から、各農地で農作業を行うことが可能か(市町村別に従事状況を報告)

・農業関係法令(農地法・農振法・種苗法・農薬取締法を想定) 

 

(2) 仕組みは、各農業員会は、(1)の申告を審査し、必要に応じて関係行政機関に問い合わせを行う 

 

概要は、「図-5」のとおり。

 


(図-5)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P6)
(図-5)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P6)

4【「農地所有適格法人」の経営基盤強化(農業経営基盤強化促進法第3章の2等)】 

 

農地所有適格法人が、出資により食品事業者等との連携措置を通じて農業経営を発展させるための計画(農業経営発展計画)について、農林水産大臣の認定を受けた場合に、議決権要件の特例を措置(認定後は、。農地の権利移動・転用等を国が都度確認)

 

重要なことは、上記の認定を受けた場合には、農地所有適格法人の議決権は、現行の「農業関係者が1/2超の議決権を有している」から、「農業関係者が1/3超の議決権を有している」、すなわち「農業関係者+食品産業事業者等」が1/2超の議決権を有している」に要件が変わる点です。

  

上記の仕組みは、「図-6」のとおり。

 


(図-6)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P7)
(図-6)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P7)

5【地域計画内における遊休農地の解消の迅速化(農業経営基盤強化促進法第22条の7)】 

 

農地バンクが行う地域計画区域内の遊休農地の担い手への権利設定に係る手続きを迅速化・義務化

 

これにより、耕作者が農地を利用していない場合には、各農業員会が所有者に対し「農地バンク」との協議を勧告 → 協議が不調の場合には、農地バンクは6ヶ月以内に知事に裁定申請が可能 → 知事による裁定・公告 → 農地バンクへの利用権設定(40年以内)

 

→ 仕組みは、「図-7」のとおり。

 

最重要な点は、各市町村においては、R7年3月までに、集落単位で地域計画を策定し、遊休農地を含め、10年後の農地利用の姿を示した地域計画(目標地図)を作成することです、

 

作成した「目標地図」の推進に向けて、各市町村は、耕作者の農地バンクとの協議勧告や裁定手続きを活用し、円滑な権利設定を推進が義務付けされることにあります。

 


(図-7)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P9)
(図-7)農林水産省_食料・農業・農村基本法改正_ブック別説明会(資料3:P9)

6【農地バンク計画(農用地利用集積等計画)の一本化について】 

 

農地の貸し借り(売買)は、令和7年4月1日から、原則として、農地バンク経由となります。

 

現在、各市町村では、農業経営基盤強化促進法に基づ き、市町村・農業者・農業委員会・農地中間管理機構・農業協同組合・土地改良区等による協議の場を設け、その協議を踏まえて、地域の農業の 将来の在り方及び農地の効率的かつ総合的な利用に関する目標等を定めた計画(以下 「地域計画」という。)の策定が進められております。

 

これに伴い、農地の権利設定の手続きについても、この「地域計画の達成」に資するよう、下記の見直しを行います。

 

具体的には、これまで各市町村が作成していた「農用地利用集積計画」と、農地中間管理機構が作成していた「農用地利用配分計画」を、令和7年4月から、農地中間管理機構が作成する「農用地利用集積等促進計画」に統合し、従前の相対を中心とした契約から機構を介して地域計画に位置付けられた者に転貸する形に一本化されます。 

 

→ 仕組みは、「図-8」のとおり。

 


【図-8】「農地バンク計画への一本化」(農林水産省:パンフレットP1)
【図-8】「農地バンク計画への一本化」(農林水産省:パンフレットP1)
【図-8】「農地バンク計画への一本化」(農林水産省:パンフレットP2)
【図-8】「農地バンク計画への一本化」(農林水産省:パンフレットP2)


【徒然のひとこと】 


農業の経営継承について、ご相談が増えております。

 

ご相談の内容は、農業経営者の高齢による「農業経営継承」に関する事項です。

 

身内の継承ではなく、第三者継承の場合、移譲する資産(所有の建物・農地・農業機械等の資産評価)の継承手続きや、「譲受側となる農業法人等の農業経営・農業栽培等の経営基盤」を計るなど、慎重な現地確認を踏まえた助言が必要であり、こうした経緯を経て、譲渡側と譲受側の円滑な経営譲渡が可能となります。

 

農業継承は、一般的な企業の「M&A」の考え方とは大きき異なり、各地域における農業・農地・気象等を取り巻く状況から、農業独自の栽培状況等の協議を重ねながら、適正・的確な継承について、実現可能な方法を探って、譲渡側と譲受側の両者に寄り添った支援が必要となります。

 

これには、農業経営・農業栽培の知見に加えて、農地の状況や農業機械の稼働状況、農業経営に係る財務状況の精査、農業気象等による災害・病害虫被害による減収などのリスク要因など、専門的な知識と経験が求められます。

 

信頼できる支援事業者が見つからない場合に、M&Aのコンサル事業者の提案については、鵜呑みにするのではなく、農業継承(第三者継承)の実務経験者に協力を得ることが重要です。

 

当社は、農業継承の支援につきまして、部門を問わず、これまでに多くの実績を有しておりますので、お気軽に、ご相談ください。