ご支援している農業者等から、2023年秋ごろから「食料・農業・農村基本法の見直し」が報道されている中、この改正で、「何が変わるのか」、「我々農業者にとって目指す方向は何か」など、大規模化を目指す農業者等からの関心が高まっております。
2024年の通常国会(第213回国会)において、農林水産省より「食料・農業・農村基本法改正案」など6法案が令和6年2月27日~3月8日に提出され、2024年予算成立後の令和6年4月から、法案審議が本格化します。
四半世紀ぶりの改正となる基本法改正案は、食料危機など不測時の対応を定める新法案「食料供給困難事態対策法案」、スマート農業振興に向けて新法案「スマート農業技術活用促進法案」、農地関連法の改正案「農業振興地域整備法等の改正案」の4法案一括審議となっております。
基本法改正案の最重要な主題は、「食料安全保障の確保」・「環境と調和のとれた食料システムの確立」・「農業の持続的な発展」・「農村の振興」の4柱への対応であります。
基本法改正法案の見直しについて、下記の「4つの方向性」が農林水産省から示されてます。
まず、農林水産省内において、現行法(食料・農業・農村基本法)(平成11年7月16日 制定)の検証・見直しについて、その経緯をみてみましょう。
改正法案の審議は、農林水産大臣からの諮問(4政第162号)に基づき、令和4年9月29日に開催された「食料・農業・農村審議会」において、「基本法検証部会」(以下、「部会」という。)が設置され、現行法の見直し・検証が開始されたところです。
令和4年10月18日の第1回開催以降、部会は、1ヵ月に2回の開催のペースで、計18回(最終開催日:令和6年3月11日)開催され、各分野の有識者等の方々からのヒアリングや議論・論点整理が行われてきました。
現行基本法は、農政の基本理念や政策の方向を明らかにする内容であり、理念として、(1)食料の安定供給の確保、(2)多面的機能の発揮、(3)農業の持続的な発展、(4)農村の振興、の4つを掲げ、もって国民生活と国民経済の健全な発展を図ることを目的としています。
この現行基本法は、制定から25年が経過し、国内市場の縮小や生産者の減少・高齢化など、大きく農業構造が変化する中、国際的には人口増加による食料需要の増加、加えて、食料生産・供給の不安定化による輸入食料・資材の価格高騰など、食料安全保障上のリスクも高まってきております。
こうした状況の中、これらの大きな課題への対応について、見直し・検証の議論・論点が第1回~第15回まで続き、第16回開催(令和5年5月29日)の部会では、食料・農業・農村基本法の検証・見直し検討の「中間とりまとめ」が出されところろです。
「中間とりまとめ」の内容は、(1)現行基本法制定後の約20年間の情勢の変化、(2)今後20年を見据えて予期される課題、(3)(1)及び(2)を踏まえた、「現行基本法の基本理念や主要施策等の見直し」の項目が出されています。
さらに、令和5年6~7月にかけて農林水産省ウェブサイトを通して、国民からの意見・要望の募集を行なわれ、加えて、令和5年7~8月にかけて、全国11ブロックで基本法検証部会委員(2~3名)と各地域の意見陳述者(7~8名)による「地方意見交換会」が実施されたところです。
以上の経緯を踏まえて、令和5年9月11日に開催された第17回の部会(食料・農業・農村政策審議会との合同会議)において、最終取りまとめ(案)が審議され、「答申」が行われました。
ここでは、上述の第16回開催(令和5年5月29日)の部会での「中間とりまとめ」の内容について、その概要をご紹介します。
(1)今後20年を見据えて予期される課題
今後20年を見据えて予期される課題として、大きく5つのポイントが挙げられています。
【1点目:平時における食料安全保障リスク】
世界的な食料需要の増大、気候変動等による食料生産の不安定化、などの状況において、安定的な輸入ができないリスク。【図1】
さらに、国内においても、質・量的に十分な食料を確保できない国民の増加傾向。
【2点目:国内市場の一層の縮小】
人口減少が本格化し、国内市場の縮小の状況となる中、国内市場向けの投資の減少。【図2-1】
一方、世界人口の増加に伴い、国際的な食市場は拡大傾向であり、海外市場も視野に入れた産業にする必要。【図2-2】
【3点目:持続性に関する国際ルールの強化】
この20年間で、温室効果ガスによる気象変動等の影響が顕著に現れ、様々な分野での環境への配慮等の持続性の確保が国際的に基本。
よって、今後は国内外市場においても、環境等に配慮した持続性可能な農業・食品産業を主流化していく必要。【図3】
【4点目:農業従事者の急激な減少】
農業者の大幅な減少が見込まれ、さらには、雇用労働力についても、全産業間で獲得競争が発生が予測。【図4-1】及び【図4-2】
こうした中、少数の経営体が、限られた資本と労働力で国内の食料供給を担うべく、生産性の向上が必須。
【5点目:農村人口の減少による集落機能の一層の低下】
自然減による農村人口の急減。集落の共同活動による末端インフラの維持困難化が見込まれる。【図5】
(2)基本理念の見直しの方向
上述の課題を踏まえて、現行基本法の基本理念について、次の4つの論点から見直しを行うこととされています。
◆「国民一人一人の食料安全保障の確立」
国民の視点に立って、食料安全保障を不測時に限らず「国民一人一人が活動的かつ健康的な活動を行うために、十分な食料を将来にわたり入手可能な状態」と定義し、平時から食料安全保障の達成を図るとされています。
そのためには、以下の取組の実施
★国内農業生産の増大を基本としつつ、輸入の安定確保や備蓄の有効活用等も一層重視
★全ての国民が健康的な食生活を送るための食品アクセスの改善
★海外市場も視野に入れた産業への転換
★適正な価格形成に向けた仕組みの構築
◆「環境等に配慮した持続可能な農業・食品産業への転換」
食料供給以外の多面的機能の適切かつ十分な発揮を図るとともに、環境負荷等に配慮した持続可能な農業・食品産業への転換を目指すべきとされています。
◆「食料の安定供給を担う生産性の高い農業経営の育成・確保」
少数の経営体が離農する農地の受け皿、付加価値向上を目指す経営体が食料供給の大宗を担うことが見込まれことから、これらの農業経営の経営基盤の強化、スマート農業等の新技術等の導入を通じた生産性の向上を実現するとされています。
◆「農村への移住・関係人口の増加、地域コミュニティの維持、農業インフラの機能確保」
都市から農村への移住、関係人口の増加により、地域のコミュニティ機能の集約的な維持、農業生産基盤の適切な維持管理を図るとされています。
以上、今回の【前編】は、「中間とりまとめ」の概要ポイントのご紹介までに留まっておりますが、第17回~第18回までの「答申」・「法律案」を踏まえた「改正農基法」が目指すものについては、次回ブログ【後編】にて 、お知らせします。
【徒然のひとこと】
基本法検証部会の第1回~第18回の配付資料(特に「資料3」)は、現状と課題がコンパクトに整理されてますので、ご関心がございましたら、是非、ご覧ください。
部会の各委員の見方・考え方についても、有識者等のそれぞれの切り口が異なっており、農業に40年以上関わっている当方にとっては、議事録の内容は、グローバルの視点に立った議論が交わされ、今後の農業者等への支援・取組の参考になる考え方など、取入れたい内容も多くありました 。
現在、50ha超の規模拡大を目指している【将来を担う「デジタルファーミングモデル生産法人」】の経営支援について、日々、取り組んでおり、弊社では、部会の論点整理での課題解決に向け、各取組みを加速していきたいと考えております。
また、令和6年2月から、みどりの食料システム法に基づく「みどり法認定」に取組んでおり、「環境負荷低減事業活動の実施に関する計画書」もほぼ出来上がり、来週には、当該県への申請準備を進め、認定書交付の実現を目指し、頑張っております。
今後、国会での「食料・農業・農村基本法改正案」の議論にも注視し、意欲ある若手農業者に寄り添った支援をしていきますので、ご関心のある方は、お気軽に、ご相談ください。