中小M&Aの実現、どうする?



最近、中小企業の経営者から、会社を売りたい・買いたいなど、事業承継のご相談が多くなっております。

 

今回のテーマである「M&A」は、英語のMergers(合併)and Acquisitions(買収)を省略した言葉であり、企業の合併を表わしてますが、ここでは、会社法の定める組織再編(合併や会社分割)に加え、株式譲渡や事業譲渡を含む、各種の手法による事業の引継ぎ(譲渡・譲受け)の全般をいっています。

 

その中で、特に、今、注目されている「中小企業M&A」は、中小・小規模事業者において、経営者の高齢化に伴う「後継者不在」や「諸事情による廃業等の選択」などを契機として、事業承継の一つの手段である「M&Aにより第三者への事業継承」の取組を示しています。

 

一般的には、譲渡側(売り手)からみた「M&A」の目的は、他社に引き継ぐ(売却する)ことにより、会社や事業を存続・発展させることであり、一方、譲受側(買い手)からみた「M&A」の目的は、他社を譲り受ける(買収する)ことで、事業・市場シェアの拡大や新たな事業への参入・展開、加えて、経営資源(ノウハウ含む)・人材を獲得できます。

 

現在、急速に経営者の高齢化が進み、2025年問題(※)が目前に迫るなか、中小企業によるM&Aの件数は、増加傾向にあります。 

 

※ 2025年問題とは、団塊世代(1947年~1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者(高齢者人口が約3,500万人)となることで起こる、雇用・医療・福祉など、様々な分野に影響する問題のことをいいます。

 

国は、現在、中小企業を活性化するために、経営課題の解決や事業継承として、中小M&Aを推進しており、支援機関の強化、補助金や税制優遇措置の拡充など、支援体制の整備・強化を図っています。

 

本ブログでは、中小企業の経営者の視点に立って、中小企業のM&Aの現状と問題・課題について、ご紹介します。

  

【中小M&Aをめぐる状況】 

 

中小M&Aは、図表のとおり、増加傾向にはありますが、現在、多くの中小企業がM&Aを経営課題の解決手段として捉えておらず、中小企業の経営者には、事業継承の選択肢として、定着している状況までには、至っていないところです。

  

これを最近の中小企業の廃業等の推移からみると、下図のとおり、2020年はコロナ等の影響により、過去最多の件数となっており、そのうち、黒字廃業が約6割を超えている状況であり、廃業する中小企業の中には、貴重な経営資源を有したまま、継承されずに失われている実態があります。

 

廃業の一つの要因が「後継者不在の問題」といわれてています。

 

民間リサーチ会社の調べによると、2025年(令和7年)までに、平均引退年齢である70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人、うち半数の約127万人が後継者不在と見込まれています。

 

後継者不在の中小企業において、なぜ、M&Aによる第三者への事業継承を選ばず、廃業に至ってしまうのか、疑問に思われませんか。

 

当社がある会社について、譲渡・譲受けのヒアリングをした中では、経営資産価値がある状況での経営者の「売却」への抵抗感などを背景に、抵抗感がやや薄らいでいる状況はあるものの、買収が実現とならないケースが少なくない状況です。

 

収益性が見込まれない状況など、経営資産価値が低下・毀損している段階において、売却意識・意向がでても、買収希望企業は当然に見つからない事態となってしまいます。

 

中小企業M&Aを定着させるためには、売却側が、収益が見込まれる状況で、かつ、事業の市場価値が下落しない段階において、買収サイドとマッチングし、双方の企業にメリットを顕在化させることが、M&Aを実現させるポイントの一つとなります。

 


中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」より抜粋
中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」より抜粋

資料「東京商工リサーチ」より抜粋
資料「東京商工リサーチ」より抜粋
資料「東京商工リサーチ」より抜粋
資料「東京商工リサーチ」より抜粋


中小M&Aに係る企業売却の潜在的ニーズを掘り起こすために、各企業の情報(直近3期分の財務諸表の解析や企業価値の算出等)について、内容を精査する必要があります。

 

その過程において、コロナ影響から脱却できた企業、引き続いて停滞する企業、後継者不足が喫緊の課題である企業、2025年問題による雇用の確保が困難な企業など、多くの中小企業が厳しい経営環境が増す中、何らかの課題を抱えている現状が洗い出されています。

 

こうした状況の中で、収益性の継続が見込まれ、かつ、保有する経営資源がある中小企業が、M&A市場に登場することなく、廃業に至っている企業も少なくありません。

 

こうした企業・事業について、廃業等の選択肢ではなく、売り手として、市場に乗せることが必要であり、一方で、企業売却のニーズを買い手に的確に伝え、経営資産の事業継承が実現できれば、買い手企業の成長や、加えて、地域経済の活性化にもつながることとなり、その波及効果は大きいといえます。

 

【中小M&Aに期待される効果】 

 

1 経営資源の散逸の回避

 

廃業を検討する中小企業の中には、ブランド・サプライチェーン・経営資産(許認可等含む)・人的資源などの有形無形の貴重な経営資源を有する企業は少なくありません。

 

M&Aによって、廃業ではなく、確実にこうした経営資源(雇用含む)が継承され、散逸を回避することが期待されます。

 

2 規模拡大等による生産性の向上

 

買い手側の企業において、事業の再編、事業の規模拡大・強化、新規事業の創出、新たな事業分野への参入など、生産性の向上に資する戦略を実現することが可能となり、地域経済の活性化が期待できます。 

 

3 創業時のリスク軽減・コスト低減

 

買い手側の企業において、売却企業の保有する人的資源・知的財産・取引先・生産設備等の経営資源を継承することにより、ゼロからのスタートではなく、許認可の取得に要するコストや、市場開拓等のリスクが軽減することが可能となり、早期の収益化が期待できます。  

 


中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」より抜粋
中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」より抜粋

【中小M&Aの主な支援制度】 

 

1 支援の措置

 

中小M&Aに関する支援制度は、下表のとおり、「引継ぎの準備」から「M&Aの円滑化」、「M&A実施後の経営統合」まで、段階的な支援措置が講じられています。 

 

2 税制の措置 

 

(1) M&Aの効果を高める設備投資減税(投資額の10%を税額控除)

 

(2) 雇用の確保を促す税制(給与等支給総額の増加額の25%を税額控除)

 

(3) 準備金の積立(リスクの軽減)(M&A実施後に発生し得るリスクに備えるため、据置期間付(5年間)の準備金を措置、また、M&A実施時に投資額の70%以下の金額を損益算入

 

3 補助金の支援

 

補助金による支援は、下表のとおり、R2年度三次補正とR3年度の当初予算において、事業承継補助金と経営資源引継ぎ補助金が統合され、「事業承継・引継ぎ補助金」とし、補助上限額も引き上げられたところです。 

 

新たな「事業承継・引継ぎ補助金」は、M&Aの仲介料や財務・法務等の調査(デユーデリジェンス費用(DD費用)、企業概要書作成費用等)、M&A実施後の設備投資や販路開拓費用等が補助金の対象となります。

 

また、「事業承継・引継ぎ補助金」のうち、「専門家活用費用」の補助金は、「M&A支援機関登録制度」に登録の機関・事業者を活用する場合、仲介手数料・DD費用等について、補助率1/2~2/3、補助上限:250万円~400万円と措置されています。

 

4 その他の支援

 

日本政策金融公庫による株式の買い取り費用等に係る融資、中小企業信用保険法による信用保証の増枠、中小企業基盤整備機構によるファンド事業などの支援策があります。 

 


中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」より抜粋
中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」より抜粋

中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」より抜粋
中小企業庁「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」より抜粋

このように、中小M&Aを取り巻く状況は、国の支援等の環境整備は整いつつあり、売却・買収の潜在的意向は、高まっている状況にあります。

 

売却の目的は、後継者不在による事業の廃業等を回避するために、中小M&Aによる「第三者への経営資源の継承」と「雇用の維持」にあり、どのタイミングにおいて、売却意向を固めるかが、実現できるかにかかっています。

 

中小M&Aの実現に向けては、買収意向を持つ企業が売却側の2.4倍以上と、買い手側に偏っている現状のなか、売却意向の企業(経営資源のある企業)との売却・買収のヒアリング等が必要であり、売却意向企業と仲介者と買収企業との双方の信頼関係も重要となります。

 

コロナによる事業の縮小や財務内容の悪化など企業価値が低下してから、買収企業を探すケースが少なくありませんが、そうした状況では、買収企業が見つからず、売却を断念し、廃業に追い込まれるケースとなってしまいます。

 

以上のとおり、中小M&Aの成功件数は、年々増加傾向にありますが、現実には、M&Aを依頼した企業の9割近くは未成約となるなど、M&Aの実現には、相当の努力が必要であり、企業価値があるうちに、企業売却のニーズを掘り起こすことが、実現の第一歩といえます。

 


【徒然のひとこと】 


当事務所は、中小M&A支援・事業承継支援としまして、主に、運送業・倉庫業・農業に関する事業承継支援を積極的・継続的に取り組んでおります。

 

主な支援内容としまして、財務諸表(直近3期分)(原価計算含む)の解析・企業価値の算出、譲渡価格の算出や、事業承継に係る売却側・買収側の企業選定、M&A仲介、譲渡契約書等の作成、資金調達(日本政策金融公庫の融資)など、幅広いご支援をさせて頂いております。

 

また、R5年9月に「M&A支援機関登録制度」に申請中であり、10月中旬に登録の予定ですので、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用)申請にも対応できます。

 

中小M&A及び事業承継につきましては、お気軽に、ご相談ください。