2020年4月1日から変わる相続の新ルールとは?

40年ぶりの民法(相続法)改正により、相続の新ルールが昨年7月1日から順次施行され、変更の過渡期のため、専門家(税理士・司法書士等)の間でも戸惑いが続いている状況です。

 

2020年4月1日から民法(相続法)改正の最大の目玉である「配偶者居住権」(新民法第1037号~第1041号):配偶者は「被相続人に属した建物に居住した場合には、無償で使用する権利を有する」が新設され、施行されます。

 

これを使えば、相続財産のうち、不動産が大半を占めている場合の「争族」の防止ができ、同時に、節税の効果をあることから、遺言書の書き方も一変すると言われています。しかし、場合によっては、配偶者居住権の選択が「得する場合」だけでなく、「損をする場合」もありますので、新制度は、贈与税や相続税にも留意して、上手に使いこなすためには、この制度を熟知しての慎重な検討が必要となります。

 

それでは、「配偶者居住権」とは、どんな制度でしょうか?

制度の概要は、相続によって、被相続人が所有する自宅建物の所有権が他の相続人に移っても、被相続人(亡くなった方)の配偶者が自宅に無償で住み続けられる権利です。

 

制度の内容は、配偶者居住権とは、被相続人が所有していた自宅の建物に、配偶者が原則として終身、無償で住み続けられる権利です。配偶者がその建物に住み続けた場合、財産的価値のある権利であり、建物そのものの価値について、(1)配偶者居住権、(2)配偶者居住権の負担付き建物所有権、に分けることになります。建物が1戸建ての場合には、その敷地も建物の使用に必要な限度で、無償で使用することができます。

 

制度のポイントは、配偶者居住権は、相続が下記のケースなどの場合には必須ですが、注意することは、配偶者の死亡とともに、この権利は消滅することです。

 

配偶者居住権を検討するケースは、相続人が二人以上いる状況で、自宅以外の遺産(預貯金等)が限られている(少額の)場合、配偶者居住権の活用が有効です。例えば、遺産総額が時価2,000万円の自宅と2,000万円の預貯金で、相続人が配偶者と子1人のケースでは、法定相続に従えば、配偶者と子が2,000万円ずつの遺産を取得しますが、配偶者が自宅を取得すれば、預貯金は得られず、生活資金に困窮する事態を招いてしまいます。

 

まさに「配偶者居住権」は、こうした事態に陥らないように、防止する制度です。居住権の評価額の計算は、配偶者の平均余命を用いますので、配偶者が若ければ若いほど、長く住むということで居住権の価値は高くなります。試算では、概ね65歳で、配偶者の居住権と子の所有権の価値が同じぐらいとなりますので、今、配偶者が65歳を超えている場合には、「配偶者居住権」を組み込んだ遺言書の作成が効果的となります。

 

配偶者居住権は、被相続人の死去によって自動的に取得できる権利ではなく、配偶者に配偶者居住権を取得させるという意思を示した遺贈(遺言書で遺産を贈与すること)や遺産分割(遺言がない場合に相続人全員が遺産の帰属先を決める手続き)がなされて、初めて、「配偶者居住権」が成立します。

 

配偶者居住権のメリットは、配偶者が「住む権利」のみを相続できることですが、配偶者居住権のデメリットは、終身の権利であるとともに、配偶者の死亡とともに消滅する権利であることが、落とし穴でもあります

 

それは、配偶者居住権を登記(※配偶者居住権の成立要件ではありませんが、登記することができます)すると、子を含めて第三者に売却・譲渡することが困難となります。なお、第三者に建物を貸して、賃料収入を得ることは認められてますが、その場合には建物の所有者の承諾が必要となります。

 

また、将来、配偶者が老人ホーム等に移る場合、配偶者居住権が放棄により消滅しますが、その場合には、配偶者から子に贈与があったとみなされ、贈与税が課税されます。(財務省の見解)

 

また、子は不動産(土地・建物)の所有権を持っているにもかかわらず、配偶者が亡くなるまで、住むことも売ることもできず、固定資産税を払い続けなければなりません。(固定資産税は所有者が納税義務者ですが、民法上は配偶者が負担すべきものですから、この制度を使う場合には、事前に協議して、配偶者と子の間で、どちらが負担するか取り決めが必要となります)

 

以上にように、配偶者居住権は、民法で認められた制度・権利といっても、配偶者居住権は「万能の制度」ではありません。遺された配偶者の今後の生活を考える上で、選択肢の一つとして捉えて、他の相続人との調整等を考慮しつつ、有効に活用したいところです。 

 


徒然のひとこと

 民法(相続法)改正が2019年7月1日から、以下の通り、順次、施行されてます。

 

(1) 妻に生前贈与された自宅は遺産分割の対象外に(新民法第903条):施行時期 2019年7月1日

(2) 預貯金が直ぐに下せる (新民法第909条):施行時期 2019年7月1日

(3) 遺産の使い込みを見逃さない(新民法第906条):施行時期 2019年7月1日

(4) 登記がより一層重要に(新民法第899条):施行時期 2019年7月1日

(5) 夫の両親(義父母)を介護していた妻の「特別寄与料」の新設(新民法第1050条):施行時期 2019年7月1日

(6) 遺留分は現金精算が原則(新民法第1042条~第1049条):施行時期 2019年7月1日

(7) 配偶者居住権の新設(新民法第1037条~1041条):施行時期 2020年4月1日

(8) 法務局において、遺言書保管制度の開始(遺言保管法第4条):施行時期 2020年7月10日

 

  当事務所では、改正民法(相続法)法案が国会で成立する前から各条文等に関心を持ち、施行後の遺言書の作成や、遺言執行について、各事例ごとに、研究して参りました。今回の改正民法(相続法)に真に熟知して対応しなければ、取り返しのつかない事態となってしまいます。当事務所は、皆様方のお力になれますので、ぜひ、お問い合わせください。