改正民法、いよいよ1ヶ月後の令和2年4月1日に施行されます。
これまでの契約書の点検や改正後の契約書の準備・対応は、できていますか?
取引・契約に関する基本法が120年ぶり大改正され、私たちの生活に身近な契約に関わる「債権法」のルールが大きく変わります。知らなかった、対応しなかったでは、済まされない、重要な改正点が多くありますので、今一度、改正ポイントを抑えておきましょう。
今回の民法(債権法)改正において、まず知っておくことは、改正点の多くが、民法(債権法)の規定より当事者間の合意(契約)が優先する「任意規定」であることです。これは、「契約書に規定(合意)されればその内容が適用される、契約書に規定がない場合は民法の一般ルールが適用される」ことを「任意規定」といいます。契約書を作成・締結するうえで、最も重要なのは、「民法では、どう規定されてるか」、「個別法では、どう規定されているか」について、必ずチェック・確認と条文の理解が必要です。
これまでは、売買取引・請負の契約において、取引先が用意した契約書を内容確認を十分しないで、そのまま利用することが多かったところですが、改正民法では、契約書に特別な定めがない場合、改正民法の条文が適用されますので、思わぬ不利益を被ることになります。そのリスクを知って、不利益を被らないためには、改正民法の改正内容を正しく理解した上で、契約内容の再チェック・再確認は欠かせないところです。
なお、強行規定(契約書にその内容が規定されても、その部分は無効となって法律が優先する)が多い法律は、主に、借地借家法、消費者契約法、宅地建物取引業法などがあります。
以下は、改正民法の重要ポイントのうち、「契約不適合責任」について、実務の面からのご説明です。
【瑕疵担保責任から契約不適合責任】➡ 発注者による責任追及の権利が拡大します!
今回の民法(債権法)改正は、売買契約・請負契約の「瑕疵担保責任」が「契約内容不適合責任」に置き換わります。納めた商品やサービスにおいて事後に欠陥(瑕疵)が見つかった場合、「瑕疵の有無」ではなく、「目的物の種類や品質等が契約に適合しているか否か」が問われることになります。特に、この「品質」を契約書で明確に定めておかないとトラブルが生じるため、契約書の内容が特に重要となります。改正民法では、契約書の条文を確実に読み取る理解が必須であり、仕事を優位に進め、不利益を回避するためには、契約内容のチェック・確認は欠かせません。
それでは、「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」の変更は、現行民法と改正民法では、何が、どう変わったのでしょうか?
欠陥のある特定物を売買(契約の趣旨・内容に適合しない履行)した場合、改正民法では、従来の「瑕疵」は「契約内容に適合しない履行」、すなわち、「債務不履行責任」として捉え、本来の債務履行を求めることができるようになります。
「債務不履行責任」として捉えるということは、その求める債務を契約書に定める必要があります。例えば、ウェブサイトの完成・納品の対価であれば、委任契約ではなく、請負契約となります。この請負契約書に、業務内容(機能・性能含む)・納期(作業工程表含む)・報酬額(工程ごとの報酬明細)・支払方法などの規定とともに、「契約の内容に適合する目的物」が何なのか、細かく規定・明記する必要があります。(○○一式、金○○万円などの契約書では、債務不履行責任が問える契約書となりませんので、ご注意ください)
例えば、ウェブサイト構築を発注する場合、使用するシステム要件、サーバー、そのスペック・OS等の内容、ドメイン、サイト構成、サイト内容・レイアウト構成、デザインの仕様・機能・用途・バナー・画像等、コンテンツの提供数・提供方法等などウェブサイト構築に必要な全ての仕様・内容(無償修補の期間・仕様等の変更方法等含む)について、要件定義書等を用いて、契約書に明記されることが求められます。建設業・リフォーム等の工事請負契約についても、工事内容等(使用する機材/部材・工法・工程等)を細かく明記することが必要となります。
また、改正民法では、上記の請負契約において、契約に規定した性能がなかった場合、請負人の責任とされ、契約不適合の内容に応じて、(1)修補請求権、(2)追完請求権、(3)代金減額請求権、(4)損害賠償請求権、(5)契約解除権が認められます。そこで、問題となるのは、売主の責に帰すべき事由(帰責事由)の有無ですが、(4)の損害賠償請求は売主の帰責事由が必要ですが、(1)修補請求、(2)補完請求、(3)代金減額請求、(5)契約解除には、売主の責任(帰責事由)は不要です。このため、売主側も買主側の当事者も、契約書にて「何が契約不適合」となるのか、その仕様・内容・用途・性能等を細かく定めることが、より一層重要となるところです。
それでは、これら「契約不適合」に係る上記の(1)~(5)の各請求権はいつまで行使できるのでしょうか?
旧法では「引渡から1年以内」(建物の瑕疵は引渡から5年の特則)でしたが、改正民法では「注文者が不適合を知ったときから1年以内に請負人に通知」となり、「引渡時」の線引はなくなったところです。これを特約で短くする場合も可能となりますので、当事者双方から、契約修正案を提示して、注文者と請負者の協議となります。納品物の内容等によりますので、「いつまで無償の修理請求ができるのか、いつまで請求されるのか」について、相手方の対案を踏まえて、慎重な検討が必要です。
いままでは、クライアント企業等が提示した契約書案について、十分な内容確認をしないで締結したケースが多くありますが、改正民法が適用される4月1日からは、注文者側においても、契約書の各条文の内容チェック・確認及び対案を提示しての協議が紛争予防のために必須となります。ご留意ください。
今回の改正において、大きなポイントの一つに「個人の保証」について、保証人に過度な負担が及ばないようにするため、制約や条件を設けたことです。これは、4月1日以降に締結する保証契約に適用され、改正民法の規定に合わない保証契約は無効又は取消となります。
「保証契約」について、どう変わったのでしょうか?
(1)事業融資の保証は公正証書の作成
これまでは、個人が事業用融資を保証する際、保証契約は口頭でなく書面を交わすことで保証意思を確認し保証契約が成立してましたが、改正民法の施行後の4月1日以降は、保証契約締結日前1ヶ月以内に、保証する意思を確認する旨の公正証書の作成が必須となりました。公正証書を作成せずに、保証契約を結ぶと保証契約そのものが無効となります。
(2)保証人への情報提供義務
各公証役場において公証人は、保証人になろうとする者に、(1)主債務の具体的な内容、(2)自らが肩代わりする可能性のある債務、(3)主債務者の財産・収支の状況等について主債務者から情報提供を受けたか、などを確認します。その上で、保証する意思があると確認されれば、公証人は公正証書を作成することとなります。(なお、例外として、主債務者が法人の場合の取締役・過半数の株主、個人事業主の配偶者等)
ここで、債務者の情報提供が重要となりますが、事実と異なる情報や情報を開示しない場合、保証契約は取り消すことができるとされ、融資する金融機関からも書面によって情報提供を求められることが想定されます。改正後は、保証人の立場は保護されますので、主債務者は十分な説明が欠かせないこととなります。
(3)根保証は上限額(極度額)ないと無効
さらに、保証後は、保証人が債権者に対して、主たる債務の元本・利息等の不履行の有無や残高等の情報を求めることができます。
取引基本契約や賃貸借契約などに対しては、個人が包括的に保証する場合、その保証上限額(極度額)を書面で定めておかなければ、その保証契約は無効となります。
徒然のひとこと
2017年(H29)5月26日に民法(債権法)改正法が成立して、2年9ヶ月が経ち、いよいよ1ヶ月後の2020年4月1日から施行されます。この間、様々な機会を通じて、改正民法・契約実務について、いままで、見てなかった民法(債権法)の中身を探求できたことは、一層の知見が備わったと感謝しております。
特に、契約書作成においては、一定のフォーマットに基づき、疑うことなく作成してましたが、法律の知識が十分でないまま、チェック・確認もせず、不十分な条項も見受けられたところです。契約書においては、知らないことが一方的な不利な状況を招き、多大な損失を生じる恐れを含んでおります。
当事務所では、改正民法による契約書作成において、発注者側と請負者側の双方の当事者の立場に立って、契約実務の面から、アドバイスをさせていただきますので、お気軽に、ご相談ください。特に、建設業(リフォーム含む)工事請負契約やウェブサイト請負契約等については、現場・実務・契約に精通しており、お力になれますので、お問い合わせください。