深刻な人手不足を解消する切り札として、2019年4月にスタートした「新たな外国人材受入れ制度」の創設から9ヶ月が過ぎようとしています。まず、現在の状況ですが、国は、5年間で14特定産業分野の受入れ見込数(5年間の最大値)の合計が345,150人とし、今年度は最大で約47,000人の受入れを見込んでましたが、受入れ状況は、想定を大きく下回る、わずか2%(11/8現在:895人(新聞報道))程度に留まっております。
特定技能外国人材の受入れについて、今、何が起こっているのでしょうか?
特定技能の資格を取得するには、(1)技能試験と日本語能力試験に合格、(2)3年間の技能実習を修了した外国人が資格変更、の二つの方法があります。
現時点の受入れでは、(1)が50%、(2)が50%、の状況であり、特定技能に変更できる資格を持つ技能実習生は、年間9万人前後と見込まれてますが、これから見ても、技能実習生からの変更が極端に少なく、見込みどおりに進んでいない状況となってます。
これは、技能実習と異なり、特定技能外国人は、同種の特定産業分野であれば、転職が可能なため、受入れ企業等が技能実習修了予定の実習生に変更申請を勧めていない企業の状況も一部に影響しているとの見方もあります。
2019年9月末の出入国在留管理庁の速報値(受入れ数:219人)によると、受入れの国(地域)別では、ベトナム(42%)、インドネシア(15%)、フイリピン(12%)、タイ(11%)、中国(8%)、ミャンマー(7%)、カンボジア(4%)、その他(3%)の受入れ数となってます。
分野別では、飲食料品製造業(22%)、産業機械製造業(20%)、素形材産業(19%)、農業(14%)、外食業(9%)、介護(7%)、その他(8%)となっており、ビルクリーニング分野、航空分野、漁業分野においては、特定技能外国人の受入れ数は、ゼロとなってます。都道府県別では、特定技能外国人の受入は、26道府県にとどまっており、21県は受入れ数がゼロの状況であり、受入れが進んでいない状況となってます。
受入れが進まない要因の一つには、特定技能外国人の資格取得には、日本語能力試験と特定産業別(業種別)の技能試験に合格する必要がありますが、12月までに国外での実施は一部の国にとどまっており、実施回数も少ない状況です。
加えて、国内外での特定産業分野別の技能試験の実施(又は実施内容の公表)が、介護・宿泊・外食業・飲食料品製造業・ビルクリーニング・造船舶用工業・自動車整備・航空・農業であり、素形材産業・産業機械製造業・電気電子情報関連産業・建設・漁業の特定産業分野は、試験内容も公表されていない準備中の状況です。
また、当面の送出し国側の9カ国(ベトナム・フィリピン・カンボジア・中国・インドネシア・タイ・ミャンマー・ネパール・モンゴル)のうち、送出し国の法令・手続き等が定まっているのは、2019.12.4時点、カンボジア・インドネシア・ネパール・フィリピンの4カ国のみであり、その他5カ国は送出し国の法令・手続き等の整備・協議が遅れているのが現状です。
しかし、今後、2020年4月以降、特定産業分野の技能試験「国外・国内」実施が軌道に乗って、送出し国の法令・手続き等が整備されれば、確実に、特定技能の在留資格による外国人受入れの増加が見込まれます。
その時までに、特定技能外国人の受入れが、受入後の支援も含めて、適正・迅速にできるかについては、受入れ企業とその支援を担う登録支援機関が関係法令等に即した役割を遂行できるかにかかっています。
特定技能外国人材の受入れに係る「登録支援機関」は、関係法令等に即した重要な役割を果たせるでしょうか?
特定技能外国人材受入れについて、受入れ企業の業務支援委託先として、当該外国人の生活を支援する「登録支援機関」が全国で3,451件(2019.12.24現在)登録されています。この登録支援機関の支援委託について、関係法令等が求めてられている「質」が確保できるかも、懸念されています。
外国人政策において、新たな外国人受入れ制度の創設により、これまでの「入国管理政策」から、受入れ後の管理にも重点を置く「入国在留管理政策」に大きく政策転換がされています。
これまでの法務省の所管である入管法制の中に、厚労省の所管である労働法的規制が多く取り込まれており、外国人受入れに関しては、これらすべての規制(関係法令等で詳細に規定)を受けることとなります。各関係法令等に熟知した横断的な知識が受入れ企業及び支援委託先である「登録支援機関」に求められており(実質は出入国在留管理庁による間接管理)、それが適正に実施できなければ、ペナルティが課せられ、受入れ企業と支援を行なった登録支援機関は、大きなダメージを受けることになります。
特定技能に係る在留資格認定証明書交付申請(又は在留資格変更許可申請)時での提出資料及び審査資料等と、受入後に提出する各届出書・各報告書・記録等(特定技能雇用契約に係る届出書(変更事項:35細区分)、支援計画の変更に係る届出書、受入れ状況に係る届出書、支援実施状況に係る届出書、活動状況に係る届出書、報酬の支払状況、相談記録書、定期面談報告書 等)について、発生後(期日後)14日以内に報告が義務付けされてます。
すべての届出・報告等の内容・経緯等は、特定技能外国人ごとに詳細にすべてが電子記録(データベース化)されており、これまでの届出・報告・審査の書類・記録と齟齬があれば、確認等を求められ、その経緯等もすべて記録されますので、特定技能外国人に係る入管法規・労働法規等に関する適正な届出・報告に基づいて、各提出書類との整合性については十分なチェックと迅速な書類作成が受入れ企業及び登録支援機関に求められています。
以上の届出・報告等について、1件でもできていない場合には、過料・罰則が定められており、場合によっては、刑事罰もありえます。
このことから、受入れ企業及び登録支援機関は、関係法令等の知識・実務は必須であり、支援委託に携わる登録支援機関は、相当の覚悟と十分な知識をもって臨まなければ遂行できないのではないか、と危惧されているところです。
徒然のひとこと
特定技能外国人材受入れについては、入管法改正の審議の段階から携わってきましたが、受入れ実務スキームの詳細を深堀りして知れば知るほど、受入れ企業及び登録支援機関の果たすべき役割が大きいことに驚いてます。
当事務所も登録支援機関となってますので、受入れ企業や登録支援機関が、各分野横断的かつ重層的な法令構造(入管法令や労働法令や各省庁の分野別運用細則等すべて)を熟知・理解して、適正かつ迅速に責務が果たすために、実務に即した重層的な関係法令構造の知識・実務の習得に日々努めております。
受入れする場合には、事前準備の中に、受入れ後の義務の履行ができない場合、過料・罰則等の内容を知って、受入れ支援が容易にできないリスクも想定し、その対策を講じて置かなければ、将来に渡って、外国人受入れ及び受入れ支援業務に携わることができなくなります。いずれにしても、特定技能外国人の受入れ支援には、相当な覚悟と継続的な努力が必要なことは確かです。