シニアの起業チャレンジは、できる?

   60歳で定年退職し、再雇用で65歳まで勤めて、そこを退職してから、どうする?

 

   今、第2の人生の岐路を迎える、65歳以降の人生をどう過ごすか、悩んでいる50代~60代の方が少なくありません。 

   高年齢者の雇用の確保に関する法律として、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)があります。この高年齢者雇用安定法では、60歳未満の定年制を禁止している他、65歳までの安定した雇用を確保するために、定年年齢を65歳未満としている企業に対して、以下のいずれかの措置の実施を義務付けています。

(1)定年年齢を65歳以上まで引き上げる
(2)希望者全員に対して、65歳までの継続雇用制度を導入する
(3)定年の定めを廃止する

   この現行法では、希望者全員を65歳まで雇用するよう義務付けていますが、政府は70歳までの就業機会を確保するための法改正を検討しています。2019年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2019」の中で、70歳までの就業機会の確保に向けて、下記の高齢者雇用安定法の改正案の骨格が示されています。

   これによると、企業は、70歳まで定年を延長するだけでなく、他企業への再就職の実現や起業支援を促すことを努力義務として取り組まなければなりません。現行の高齢者安定雇用法では、希望者全員の65歳までの雇用を義務付けていることから、60~64歳までの就業率は2018年で約70%と5年前と比べて10ポイント上昇してます。

 

   65歳から70歳までの就業率が60歳~64歳と同水準になると、就業者は全国で約220万人増加し、経済効果も期待できると試算があります。2018年では、65歳以上の高齢者の就業率は24.3%(男性33.1%、女性17.4%、男性では3人に1人が就業)となっており、就業率を年齢別に見ると、60代後半では50%近くが、70代前半でも30%の割合で働いてます。(総務省統計局)

 


   法改正案において、他の企業への就職支援などの追加の4項目には、現時点、実効性が不透明なものもありますので、65歳からの仕事について、「どう取り組めるか」について、ご提案します。

 

   65歳でリタイアしたシニアが新しい仕事を探そうとして訪れるのが近くのハローワークになります。しかし、現実には、ハロ-ワークには、65歳以上の求人は、ほとんどなく、多くの求人広告等が警備・清掃等の単純作業が多く、勤め上げた経験・知識・技術を生かせる職場は見つからないのが実態です。求職を希望するシニアと、真に必要な人材がほしいとする求人側のニーズが合致しないと、65歳以上のシニアの再就職・再雇用は、極めて難しい状況です。

 

 そこでご提案したいのは、シニア起業へのチャレンジです。最近、会社を定年退職後に起業する方が増えてます。再雇用で65歳まで働けたとしても、その後がない、何をするのも、65歳になってからでは、何の取り組みができない思考回路になってしまいます。そこで、現役時代から、65歳以降の起業チャレンジについて、準備が必要となります。

 

   私の場合は、再雇用を望まず、定年退職の60歳で起業して、人脈もない新たな分野での事業でしたので、順調な滑り出しとは行きませんでした。しかしながら、「石の上にも3年」のことわざどおり、4年目から軌道に乗り、現在では、多くの方からお役に立てる仕事を頂き、大変感謝しております。

 

   一方、志をもって起業したのに、3年以内に廃業された方も少なくありません。

   何をもって、継続的にビジネス展開ができるかは、一つには、自分のできることが、顧客がお金を払っても頼む知識・技術・商品・サービスのレベルか否か、二つには、顧客を獲得するための費用のかけ方が適切か否か、三つ目には、自分を知ってもらう仕掛け・仕組みの構築ができたか否か、の三つでは、ないでしょうか。


   上記の三つが、私は、重要な事項と位置付けております。

 

   これに加えて、事業を軌道に乗せるのには、ご自身の経験とビジネスの内容(顧客の有無等)によっては、様々な要素があります。例えば、現役時代の取引先や競合他社等とのネットワークが既にあって、その人脈・つながりで仕事・顧客が獲得できる方は、起業直後の1年目から軌道にのって、事業展開可能な方もいます。

 

   しかしながら、多くの方は、ほとんど現役時代の人脈は使えず、新たな顧客を獲得するまでは、「ギブオンリー」で、まずは、「自分の事業を知ってもらう」ことが3年かかると覚悟することが必要です。なぜなら、新たにビジネスを始めた人が提供するサービスは誰も知りませんし、評価もゼロ以下です。ビジネス(取引)が起業直後から成立するのは、極めて厳しいことは、現実です。

 

   私の場合、起業直後から、市民法務(相続・遺言・契約書作成等)に関するセミナーの講師を年20回以上、無報酬で取り組みました。目的は、プレゼン能力向上とセミナー終了後の相談対応のスキルアップでしたが、現在も日々勉強ですが、人の相談に乗れるのは、少なくても3年が必要と実感しました。今でも、セミナー・講演会は、オファーを頂いており、多くの方に、生活に関わる制度のしくみや問題点などをお伝えし、身の回りのご相談をお受けしています。

 

   以上に加えて、シニア起業は、「無理をしないこと」が鉄則です。

 

   65歳からのシニアにおいては、退職金や公的年金もあって、起業による所得が直ぐになくても、しばらくは事業展開が可能ですので、最初から借入はぜず、経費負担は必要最小限に止め、「ギブオンリー」の精神で望むことが肝要です。

 

 何よりも、自分のしたいことをやって、自分の力で稼げることが、65歳以降の第2の人生について、楽しく健康に過ごせる秘訣ではないでしょうか。

 

   シニアの起業チャレンジは、無理をしないことが前提で、自分のしたいことに取り組む方向がベストです。65歳からの人生において、生涯現役を目指してのチャレンジは、いかがでしょうか。


徒然のひとこと

 

 シニア人材の活用について、生産性を上げている企業の紹介も多く見かけるようになりました。特に、建設・自動車等の現場においては、シニアが持つ技術・知識を若い社員に技能伝承することが重要となっております。

 

例えば、素形材製造においては、工作機械やロボット操作は若い社員が中心ですが、素材の加工・切断・旋盤・溶接・表面処理工程等の人が携わる仕事においては、シニアの技術・知識は欠かせません。職場の活性化につながる部門において、65歳以上のシニアの採用・雇用が、今後、拡大することを期待したいところです。