みなさん、1年中、高級フルーツとして、百貨店の果物コーナーに、麗しい姿で鎮座している「クラウンメロン」を見たこと・食べたこと、ありますか? 上品の甘さと豊かな香り、素晴らしい網目模様がクラウンメロンの特徴です。
一般にマスクメロンと呼ばれているのは、網目があって香りが高いメロンの総称(いろんな種類全体の呼び名)です。温室メロンは、食べる頃になると、ムスク(musk)のような良い香りがするために、別名「マスクメロン」(musk melon)とも呼ばれています。
マスクメロンはいくつかの系統(群)があり、さらに品種もいろいろあります。マスクメロンの中の「アールスメロン」の代表的な品種は、アールス・フェボリット(クラウンメロン)です。クラウンメロンは、アールス・フェボリット品種で、「クラウンメロン」は地域ブランドの名称です。このクラウンメロンは、静岡県袋井市近辺を中心に生産されている温室マスクメロンの地域ブランドです。
本年、このクラウンメロンを栽培されている農業者の農業法人(農地所有適格法人)の設立に携わって、温室メロンの営農計画書の作成を通じて、1年通して栽培が可能で、高い単価で取引され、高収益を期待できる付加価値の高い果物であることを改めて知りました。
東京日本橋の高級フルーツショップ千疋屋(せんびきや)では、1玉2万円を超える値段がついており、果物全体の中においても、最高級品の位置づけです。
「クラウンメロン」の生産地が静岡県袋井市周辺です。この地は、気候温暖で肥沃な土地、豊かな清流を有する静岡県西部、天竜川以東の地域で、年間通じて、メロン栽培が温室ハウスを利用して行われています。栽培農家数は200戸、温室棟数1800棟、年間出荷量32万ケース(1ケース6個)(※1日当たり1,000ケース)、生産額33億円(データはH26年)で、厳正な品質管理で「クラウンメロン」ブランドが確立しています。
栽培は、温室ガラスハウス(省力生産型(自動温度調整・自動かん水装置)で通年(年4作型)栽培です。(栽培カレンダーは下記)
温室ハウスを利用した通年栽培ですので、冬場(10~4月)は加温のために燃料(化石燃料)が必要となります。このため、農業経営費(生産費)のうち、構成比の高い燃料コスト削減に向け、化石燃料に代わる(1)太陽光温水器の利用、(2)バイオマスボイラーの利用等の導入・切り替えが、今後の高収益確保につながる農業経営のポイントとなります。
リーマンショック前には静岡県袋井市周辺で、800戸以上のメロン栽培農家がありましたが、燃料費の高騰や生産者の高齢化やギフト需要の低迷などにより、メロン栽培を辞めた農家も少なくありません。現在、辞めた農業者の未利用(空き)温室が当地域に散在しており、この活用ができれば、メロン栽培経営も次の局面が期待できます。
法人化の目的は、空き(未利用)の温室ハウスの用地・施設・設備等を購入・賃貸借等により法人で取得し、メロン温室として再活用を図ること、加えて、栽培は、高度な技術や温度管理等が熟練でないと対応できないことから、この技術を習得するために、地域の後継者育成・研修を図る体制を構築することが目的と聞いてます。
地方移住して、起農して自然とともに生きることをご検討されてる方は、農業のうち、作物・果樹・畜産の分野の「何をするか」、それには、生産費がどのぐらいかかり、販売額はいくら見込めるのか、通年栽培できない1年1作であれば、多品種栽培できる農地はあるのか、栽培技術は有しているのか、出荷・販売はできるのか、利益は見込めるのか、また、毎月の収益が望めない場合、新規就農直後の農機具等の負担額がいくら必要なのか、融資はうけれるのか、就農初期の3年程度は販売額・利益が見込めない状況で、生活・返済はできるのか、など、現実的には大きなハードルが多くあります。
そこで、温室メロン栽培が注目されています。通年栽培が可能で、栽培技術の習得と、未利用の用地・施設等の確保ができれば、他の作物・果樹では達成が難しい高収益が期待できます。
また、メロンの場合、加工品の商品開発(アイスクリーム・ゼリー・ジャム・メロンパン菓子など)についても、消費者の需要が見込まれることから、取引・販売が安定しています。これらの原料が出荷できない規格外であり、栽培された果実はすべて販売額に見込めます。
農業にご関心のある方、農業、それも施設園芸、温室メロン栽培にチャレンジしませんか?
また、9月から卸売市場で「機能性表示食品」と表示された「静岡県産温室メロン」の出荷箱が出回っています。
これは、アールスメロン(クラウンメロン)には、精神的ストレスの緩和作用のあるGABAが含まれていることに着眼し、新しいアピールポイントとして位置づけたと聞いています。
今年5月に消費者庁に申請受理され、8月から「GABA機能表示」の出荷箱で出荷しており、今後、この機能表示によって、販売に直結する効果はわかりませんが、「精神的ストレスの緩和」効果は、新たな需要層が生まれる可能性はあります。
※ 参考【医学的には、以下のとおり】(静岡県ホームページから引用)
メロンは、利尿作用があることが知られており、体内の余分な塩分や老廃物の排除に良いと言われています。これは、特にメロンが豊富に含むカリウムが、体内の余分なナトリウム(塩の主成分)を排出する作用があるからです。
ちなみに、日本食品標準成分表によるとメロンの可食部100gあたりのカリウム含有量は340mgで、これは同じように利尿作用があるウリ科のすいかの120mgと比較すると3倍近い含有量となっています。とかく塩分を多く取りがちな人の食習慣にとって、おいしいだけでなくからだにもよい食品と言えるかもしれません。
また、温室メロンには、高血圧を予防するギャバ(GABA γ-アミノ酪酸)が含まれています。温室メロン1個の中に、ギャバロン茶56杯分の成分が含まれています。
徒然のひとこと
私も農業者で野菜(かんしょ・たまねぎ・レンコン等)を50aの面積で栽培しております。
温室メロン利用のメロン販売額と比べると、10a当たりの販売額は6分の1にも満たない状況です。多くの耕種型農業(農地を利用した露地栽培)のみでは、耕地面積を2ha以上確保しないと、再生産が可能な農業経営(補助金には頼らない)は、現実には、厳しい状況ではないでしょうか。
農業就業するには、農業栽培技術や農業機械技術のスキル、農業病害虫防除・農業気象等の知識は必須ですが、農業経営できる作物(果樹等)(適地適作)の選定と農地・施設の確保、JAには頼らない販売力と営業力、これを可能とする資金の確保、加えて、通年出荷・販売が可能な6次産業の会社経営の知識と行動、それを支える必要な資金が必要と40年の農業経験から痛感しております。