⬛商品引渡し時の売主と買主の責任【特定物の危険負担】が明確になります!
【改正内容】
◆特定物が契約後・納品前に滅失損傷した場合、買主は代金の支払いを拒めます!
★これまでの現行法では、特定物(特定の絵画など代替不可能な商品や建物など当事者が個性に着目した物)が、契約後・納品前に滅失損傷した場合、売主に滅失損傷について責任がない場合(帰責事由がない)には、買主は代金の支払いを拒むことができないされてます。
互いに何らかの債務(物の提供、金銭の支払の義務)を負う契約締結した場合で、いずれも債務を果たしていない内に当事者の一方が債務を果たすことができなくなったとき、他方の当事者はそれでも自身の債務を果たす必要があるのか、というのが「危険負担」です。
【現行法:原則 】
(民法第536条1項)
★(1) 契約の当事者のうち一方が、自分と相手のどちらのせいでもなく、不可抗力で債務を果たすことができなくなってしまった場合は、その相手方に対しても債務を果たすことを求められなくなるのが原則です。
(民法第536条2項)
★(2)契約の当事者のうち一方が債務を果たすことができなくなったのが、その相手方の責めによるときは、その相手方に対して契約内容の通りに債務を果たすよう請求できます。この請求をするとき、自らの債務を果たせなくなったことで何らかの利益があったときは、請求にあたってその利益分の減額等がなされます。
【現行法:特定物の引渡しの場合】
(民法第534条1項)➡削除
★特定物(絵画など代替不可能の商品や建物など当事者が物の個性に着目した物)の取引に関しては、契約が成立した後、引渡しも代金の支払いもされないうちに、不可抗力で物が失われたり損傷した場合、その損失は引き渡しを受けるはずだった側(買主)が負担します。つまり、物が失われたことで物の引渡しを受けられなくても、買主は代金を払う必要があり、また、完全な状態での引渡しが受けられなくても、代金の全額を支払う必要があります。
(民法第534条2項)➡削除
★不特定物(生産量が多い物など、その種類や数量で取引する物)の取引に関しては、引渡しのための準備を完了したり、相手の同意のもと引渡す物を指定して、引渡す物が特定した段階から、上記の民法534条1項と同様に扱われます。
★該当条文【現534条削除及び現535条削除】(原文)
(債権者の危険負担)
第534条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2 不特定物に関する契約については、第431条第2項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
(停止条件付双務契約における危険負担)
第535条 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。
3 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
◆以上のとおり、改正民法では、危険負担に係る規定は、民法536条の原則が適用されます。
★該当条文【第536条】(原文)<上記の掲載と同じ>
(債務者の危険負担等)
契約の当事者のうち一方が、自分と相手のどちらのせいでもなく、不可抗力で債務を果たすことができなくなってしまった場合、その相手方は自身の債務を果たすことを拒むことができます。
2 契約の当事者のうち一方が債務を果たすことができなくなったのが、その相手方のせいであるときは、その相手方に対して債務を果たすこと請求できます。この請求をするとき、自身の債務を果たせなくなったことで何らかの利益があったときは、請求にあたってその利益分の減額等がなされます。
【事例】宅地建物の売買契約において、物件の引渡しの前に、建物が地震で「半壊」した場合、買主は売主に対して、売買代金の減額ができるか。
(回答):できる。買主は、履行の補完が不能であるときは、催告することなく、直ちに代金の減額を請求することができる(民法第563条第2項第1号)。なお、残存する部分のみでは契約をした目的が達することができないときには、契約を解除することができる(民法第542号第1項第3号)
★改正民法の危険負担に関するポイント
地震等による目的物滅失の取扱いについて、民法改正前には、民法上の目的物滅失のリスクは買主負担とされていたために、そのリスクを転嫁する「特約の定め」に大きな意味がありましたが、民法改正によって、買主側においては、特約がなくても目的物滅失のリスクが売主負担となったので、特約を定める意味は、比較的小さくなったところです。(売主側は特約が必要:下記「留意事項」参照)
◆商品納品(引渡し)後の滅失・損傷は、買主負担(改正567条)が適用されます。
★該当条文【改正第567条】(原文)
(目的物の滅失等についての危険の移転)
★売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後に、その目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。
2 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする。
★改正民法の「売買において、引渡し後、代金支払前に目的物が滅失した場合の特則」に関するポイント
上記の場合には、危険負担とは異なり、買主は、その滅失又は損傷を理由として、契約不適合責任(注:次頁)の追求(履行の補完請求、代金の減額請求、損害賠償の請求及び契約の解除)をすることはできす、また、買主は、売買代金の支払いを拒むことができません。
売主が契約に適合する目的物を買主に提供したのに、買主が受領を拒み、または受領できない場合において、履行の提供の後に売主に責任のない事由によって、目的物が滅失・損傷したときも、買主は、売主に対して、契約不適合責任を問うことができなくなります。
【まとめ】
買主は、当事者双方の責に帰することができない事由によって、売買の目的物が滅失したときには、代金の支払いを拒み、または、売買契約の解除をすることいができますが、引渡しを受けた後に、目的物が滅失したときには、代金の支払いを拒めず、契約不適合責任を問うこともできないものとされました。
以上、改正民法で定める「危険負担」の規定は、すべて「任意規定」と解されてますので、当事者間でこれと異なる「特約」をすることは可能です。
【留意事項】
「危険負担」は任意規定であることから、不動産業者(売主側)からは、契約書に下記の特約がありますので、留意が必要です。
(引渡し完了前の滅失・損傷)
売主・買主は、本物件の引渡し完了前に天災地変、その他売主、買主のいずれの責にも帰することができない事由により、本物件が滅失または損傷して、修補が不能、または修補に過大な費用を要し、本契約の履行が不可能となったとき、お互いに書面により通知して、本契約を解除することができる。また、買主は、本契約が解除されるまでの間、売買代金の支払いを拒むことができる。
(参考)
危険負担は、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなった場合の条項です。
これに対して、債務不履行は、債務者の責めに帰する事由によって契約に適合した債務の履行がなされない場合の条項です。
売買契約において、引渡し前に目的物が滅失・損傷したときには、滅失・損傷について売主に責任がなければ危険負担の問題(例:地震・水害等の災害による建物の滅失)、滅失・損傷について売主に責任があれば債務不履行の問題(例:建物の保管が不十分であったことによる建物の焼失等)となります。
(事例)
宅地建物の売買契約において、買主は売買代金の全額を売主に支払ったが、売主が物件の引渡しに応じない場合、その間、地震で建物が全壊したときは、危険負担の扱いではなく、債務不履行です。この事例の場合、債務不履行ですので、買主は、売主に対し損害賠償の請求と契約の解除ができます(改正民法第415条、第542条第1項第1号)。
★債務不履行とは?
契約成立後に債務者が、(1)履行が可能であるにもかかわらず、(2)債務者の責めに帰することができる事由によって、(3)違法に(正当な理由もなく)、(4)債務の本旨に従った履行をしないことをいいます。
【徒然やまとコラム】
★特定物を販売する場合、売主が引渡しまで責任を持つことになりますので、滅失損傷しやすい商品の場合、契約において、滅失損傷による代金減額について、減額幅を予め一定の範囲内に限るとすることを契約書に入れ込むなど、対応措置が必要となります。
★詳しくは、ご相談ください。
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